”機械は手の延長線上にある”と思っています。
機械加工は手加工より効率良く、キレイに加工する手段でもあります。機械加工を否定する気は全くありません。良い機械を上手く使えればそれに越したことはないと思います。ただ欲しいと思う機械を導入(購入)する余裕はなかなか出て来ません。既存の機械にいろいろと補機や治具を作り取り付けて意図する仕上げを試みるのですが、「こりゃあ手だな」ってことは良くあります。
また、所有する数少ない機械で加工しているとデザインの発想もその機械加工に縛られがちで線や面も直線的になりやすいです(わたしだけかも)。ところが手加工に慣れてくると「機械で出来なきゃ手でやれば良いじゃん!」となり、デザインの自由度が広がります。それは全体のデザインは勿論ですがパーツの些細な箇所にも生きてくると思っています。これはCADと手描き図面にも当てはまります。
話は少し離れますが、木工屋になった当初、機械加工がメインでまともに使った手道具は平台鉋くらいでした。単品であるのにその都度治具を作っていて、気が付けば一度しか使わなかった治具が増え埃が積もっていました。今は補機や治具を作る時は汎用性のあるものにしています(単に端材ってことも多々ありますが)。
さて椅子ですが、箱物やテーブル、机などと比べると圧倒的に手加工が多いです。何せ直線が無い肉体を支えるものですから。公園のベンチでさえ昔は板を平らに並べただけだったのが今では曲面に並べてあります(昼寝には不向き‥‥)。オーダー家具を作る木工屋としては平らな座板や背板などはあまり好みません。
パーツごとに見ていきます。
手加工が多いパーツ
座板
手加工は座刳り(前Blogに掲載)のほかに、前後脚との組み部分、座板周囲の斜め加工、背もたれの枘穴などです。
脚との組み部分ですが、長方形から曲面の座板を作るのならば機械加工は容易ですが、接ぎ合わせる木取り段階では曲線の型板ギリギリ。手加工しかない。
座板周囲の斜め加工は、傾斜盤で3度傾斜切削を行った後に反り台鉋で仕上げ。
背もたれの枘穴の面は笠木の枘穴と並行にするため座面より3度傾斜で切削し、笠木の型板で枘穴位置を決めます。枘穴が傾斜面に直角になるようトリマで粗彫り、当て木を当てて鑿で仕上げます。
脚
後脚は曲面なのでバンドソー、反り台鉋の一般的な工程。笠木と組む小根付き枘は手鋸。前脚外側と後脚背面はR面なので平台鉋、反り台鉋での仕上げとなります。
笠木
R面はバンドソー、反り台鉋。後脚と組む両橋の枘穴は角鑿盤で通常の穴開け。
背もたれの5つの枘穴センター位置はひとつの円周上にあるため円の中心に向かって線引きしておき(型板より)、角鑿盤ガイドに直角に決め当て木で固定するとRに沿った枘穴加工が出来ます。
背もたれ
後脚同様にバンドソー、反り台鉋の一般的な工程。上下の枘部分の背面は面出しし傾斜盤で枘厚み加工が出来るようにしておきます。
笠木を上下2本にして後脚で固定する方が制作上は容易ですが、今回のデザインでは背もたれが後脚より前に出るため直接座板に挿すタイプです。
ざっとこんなところでしょうか。
曲線曲面が多いと反り台鉋、四方反り鉋は必須です。曲線曲面は順目と逆目が入り混じっていて逆目ぼれが起きやすいです。台と刃の調整は勿論ですが刃口埋めによって切削は全く変わって来ます。持っていても逆目ぼれで使うことを敬遠されている方は是非刃口調整をしてみてください。加工、デザインとも幅が大きく広がります。
おまけ1
自作のルーターテーブルに円形のガイドを試してみました。材の挿入側は1mm程度低めにしています。手押し鉋盤の曲面版といったところ。今回手加工を終えてから作ってみたのでどこまで実践的かは‥‥ただ、試してみると使えそう。問題は挿入時の材の安定感。も少し手を加えてみよう。
おまけ2
胡桃の座刳りをしていると、臀部中央に小節が‥‥‥‥サラっと流そ!