久しぶりに拭漆2

 

今までの経験を思い出しながら久しぶりに拭漆をしていました。
そこで、拭漆の際に留意している事項を整理したいと思います。ただ、ここでは基本的な拭漆の作業行程は書きません。あしからず。
読者の方が少しでも漆仕上げ(ここでは拭漆)に興味を持ち、その仕上がりの美しさを自身の手で感じ取ってもらえればと思っています。木工仲間の中には仕上がり時間が長い、かぶれが心配、などから敬遠したり外注したりする人もいますが、わたしは仕上げの中で最も美しいと思っています。美しく仕上がって行くのを待つ過程はある意味で恋愛感情にも似ているようにも思います。

乾かない漆

乾かない漆は本当に乾きません。<乾く=乾固>
乾かない漆に乾いてもらうには、乾く漆と混ぜると乾きます。「やさしく身につく漆のはなし」((社)日本漆工協会編)に書かれていました。
今回、塗り4回目で乾かない漆となり1週間経っても乾かないため漆を買い直しました。テストピースで乾くのを確認した後、乾かない漆を溶剤で落とし1日置き新しい漆100%を塗り仕上げました。流石に乾かない漆と混ぜる勇気はありませんでしたが、終了後、テストピースでどれくらいの比率で混ぜ合わせれば乾くかを確認しました。
乾く漆:乾かない漆の比率で、1:1.5までは1:0と変わらない時間で乾き1:1.8以上からは少し時間を要しましたが乾きました。1:1ならば問題なく乾きます。

漆の乾きテスト

 


ちなみに色漆の場合は乾くのに時間を要するものは仕上がりが美しいと言われています。時間が長いと塗面が滑らかに落ち着くためと思います。色漆を塗るものは小物が多く塵や埃を遮断する役目も果たす室に入れるから時間を要しても良いのでしょうが、家具などの大物の拭漆の場合、室や段ボール箱など密閉した環境作りは難しく室内で乾かすことがほとんどです。そのため乾く時間が長いと塗面に塵や埃が付着しやすくなります。せめて一晩で乾いてもらいたいものです。

室温は20度が最適と言われるが

室温は20度が最適と言われていますが、10度程度でも十分に乾きます。
冬場では10度に届かないのはごく普通のことで暖房機でそれなりに室温を上げるのですが、注意することがあります。

漆部屋の温湿度

漆を塗り終えてから室温を上げない

乾かす環境に馴染んだ状態で漆を塗ることが重要です。
寒い時期に漆を乾かす部屋を暖める場合は、漆を塗る2〜3時間以上前から材とともに部屋を暖めておくことが大切です。
漆を塗ってから室温を上げると、冷えていた材が温められ導管口に入り込んだ漆が導管内の膨張した空気に押し出されます。すると材表面に小さな漆の風船が出来たりブツブツになったりします。
小物の場合も同様で、段ボール箱内で乾かす場合などストーブの近くやファンヒーターの前、ホットカーペットの上など直接、間接を問わず急に温度を上げると風船、ブツブツが出来ます。
ホットカーペットは段ボール箱に下駄を履かせても良くありません。ホットカーペットは不向きです。
また、夏の暑い時期、乾きが早いため大物の拭漆では塗ったところから直ぐに拭き取らないと乾いて拭き取れなくなります。暑い時期は湿度計の数値よりも実際の湿度が高いせいか高い気温のせいかウルシオール内のラッカーゼの活性化が促進されるようです。ただ乾きが早いため朝夕2回の塗りも可能で効率良く作業が進められます。

湿度は70〜80%が最適と言われるが

湿度は70〜80%が最適と言われます。勿論その環境が良いのですが50%前後でも十分乾きます。
湿度も温度と同様に急な上昇は芳しくありません。
乾燥している寒い時期、暖房機とともに湿度を上げるために加湿器を使用しました。壁や掛けてある濡れタオルに噴射口を向けていても芳しくありませんでした。自然環境下での湿度ととは異なり大気温より低温の水の粒子であり粒子も大きいのでしょう。そのため、塗り面に水蒸気の粒子が落ちたようなザラツキが出来ます。加湿器を使う場合は噴射口が見えないくらいに掛けた濡れタオルのみを湿らす感じが良いです。ストーブでお湯を沸かす方が加湿器よりも良い状態になります。
最も綺麗に仕上がるのは、室温が10度前後であっても濡れタオルや洗濯物をぶら下げておく方法です。あまり神経質になる必要はありません。

酢ビとは相性が悪い?

家具での拭漆の場合、基本的に組み上げる前の部材に漆で仕上げますが、天板などの接ぎ合わせは漆の前に行います。
ところが、以前酢ビ(酢酸ビニルエマルジョンのボンド)で接ぎ合わせて漆を塗ったところ、接着箇所がザラついて浮き出てきました。初回のみかと思いましたが塗り重ねる度ごとに同様の現象が現れます。使用したボンドは一般的なコニシのCH38です。お世話になった漆職人の浅川忠さん(名古屋)に尋ねても「そんなことはないと思うが?」とのこと。化学反応によるものかどうか定かではありませんが、それ以降拭漆での酢ビ接ぎ合わせは行なっていません(接ぎ合わせ強度の面からも)。

漆を使う時

漆のチューブは必ず寝かせて保管します。キャップを上にして保管するとウルシオールなどの主要成分が沈殿してしまい、初めに出した漆は主要成分の薄い水っぽいものから出るため乾かない、乾きにくいです。出来れば使用する際にチューブから全て出して丁寧に撹拌して使うのが最良です。重ね塗りとなるので残った漆は空気が入らないようにラップして翌日使います。漆は伸びが良いので塗り重ねるたびに使用量は少量になります。5,6回目くらいになるとティスプーン2杯で1畳分以上は濡れます。塗り作業が終わるまで器に漆が残っていても問題はありません。
ただ少量しか使わないのにチューブから全て出すのは勿体ない。そこで撹拌した漆を使う方法として、キャップを外したら針金などを突っ込みチューブ内で撹拌する、チューブの尻を開いてチューブを絞らず器に流し出して撹拌、使い残った漆をチューブに戻す、ということなどもやっています。

残った漆は、手元にある小物に塗ります。もう20回以上塗っている。

残った漆は小物に

漆のかぶれ

木工を始めた当初はまだ若く(40歳過ぎてましたが)抵抗力もあり、初めての拭漆スキンローションは手袋もせず素手で塗りと拭きをやり両手とも真っ黒にしていても平気でした。ただ、わたしが大丈夫でもスーパーのレジのオバちゃんは弱いかもしれない、と気付いて手袋をするようになりました。また、年齢とともに抵抗力が落ちたのか体調不良であったせいか手首がかぶれたことがありました。「うるしと塗り読本」(全国漆業連合会)にかぶれの塗り薬名が書かれていたのを思い出したのですが、読本を探し出すのが面倒でネットを検索したところ『ヒアロルン酸配合スキンローション』(渋谷油脂(株))が効果あり、と出ていました。価格は500円程度と廉価でありドラッグストアやホームセンターなどでも取り扱っており、効果がなくてもローションとして使えば良いか、と使ってみたところ、とんでもなく良く効く!!水脹れは1週間で跡形もなくキレイに完治しました!今は顔と体の皺伸ばしに使っていますが、こちらの効果は如何にぞや!?

久しぶりに拭漆2」への2件のフィードバック

  1. 漆に混ぜる松煙はどのような種類を買うのか?
    取り寄せたら漆喰用と書いてありました
    なるべく詳しく教えてください

  2. 田島さん、こんにちは。

    松煙、用途に応じての種類があるのですか?不勉強で申し訳ありません。
    漆屋さんに確認してみたのですが、漆屋さんも首を傾げておりました。
    漆屋さんが仰るには「もし種類があるとすれば、天然ものかカーボンブラックという化学品か、ではないか?」とのことです。また、近年は漆屋さんでの松煙の需要が激減しているため、取り扱いもほとんどなくなっているようです。
    どちらから入手されたか判りませんが、そちらに直接問い合わせてみてはいかがでしょうか?
    わたしの手元にある松煙は20年ほど前に漆屋さんから購入したものですが、その時は単に「松煙」として天然ものを購入しました。今は入手も難しくなっているようです。
    答えになっていなくて申し訳ありません。

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