ピューター合金鋳物でのツマミ、把手の取り付けのご希望です。
以前制作した厨子.4で使ったものが気に入られたようです。
良い機会なので、制作工程を書くことにしました。
ピューター合金
ピューター合金は錫(すず)の合金で、一般的に錫(Sn)91%:アンチモン(Sb)7%:銅(Cu)2%で調整されています。錫のみでは剛性が出ません。わたしが初めて手掛けた際100%の錫が良い!と勝手に思い込み作ったのですが柔らかすぎて手の力で変形してしまい改めてピューター合金を購入し直しました。
ピューター合金は銀白色の光沢で美しく、その歴史は紀元前まで遡るとも言われ、欧州を中心に日常品、工芸品(アーツ・アンド・クラフト運動、アール・ヌーヴォーなど)として評価されてきたものです。好き嫌いもありますが、型の異物の黒い汚れが残ってもそれが逆にアンティークさを醸し出します。
融解温度が320度程度と低温であることから家庭用のカセットコンロの火力でも十分に融解できます。錫が主成分であるためにヤスリや鋸などの加工は容易ですが、機械的強度・剛性は真鍮よりも低くネジ山を切っても直ぐにナメてしまいます。そのためビス止めをする際は六角ナットを埋め込む必要があります。
制作工程
ピューター合金での制作工程を書いていきますが、わたしなりのものです。人によってはモデルを抜いて注湯したりもすると思います。試される方は色々工夫してみてください。
- 発泡スチロールでモデルを作る。モデルは溶けてほぼ無くなります。
- 鋳造用の箱を作る。
- モデルを鋳物用の砂に埋める。
- 融解したピューター合金を注湯する。
- 冷えたら型から取り出す。
- ワイヤブラシで掃除する。
- バリや余分な部分を除去する。
- 磨きをかけるなどして仕上げる。
となります。以下、ナットを埋め込むツマミ、把手の制作工程を写真と注意したことなどを書きます。
発泡スチロールのモデルは、ビス、ナットを埋め込むのですが、今回は5mm入ったところにナットを設定、ビスは扉などの厚みが20mmの場合は18mm厚の材で固定します。完成品の中に2mmのビスねじ空間(遊び)を設けておくのは締め付ける余裕のためでもあるのですが、研磨することもあり完成品の精度が出しにくいこともあります。
また、融解している合金は冷えると収縮しヒケが出るため、その力が埋め込むビス、ナットに掛かるため、しっかりした固定が必要になります。
鋳造用の箱は大きいに越したことはないのですが、あまり大きいと砂の量が大変です。また小さすぎるとスチロールが溶ける際に崩れてしまうことがあります。モデルの3〜5倍くらいの容量が必要と思います。石膏を使う場合は箱の内側にラップを置いて流し込むようにすると箱の掃除が簡単です。
モデルを砂に埋める際、ビス、ナットを埋めるために面出しをします。砂はまだ空気を多く含んでいるため箱の底や周囲をコンコン叩いて締めていきます。砂を崩れにくくするためです。
ちなみに、鋳物の砂ですがプロの鋳物屋さんから分けてもらうのが良いです。わたしは初めての時はそうでした。数年前ネットで探して購入したもの(ガラスの粉末を含んでいるのでしょうか、キラキラしているのです)はサラサラで砂の締まりが悪く注湯した際に崩れてきます。今回ツマミは上手くできたのですが把手の制作では2回も崩れてしまい、近辺の鋳物屋さんにお願いしようかと思ったのですが、何やら煩わしく思いホームセンターなどで手軽に入手できる石膏で鋳型を作ることにしました。
石膏での型作りで注意することは、石膏自体は30分程度で固まるのですが、注湯は最低1日空けた方が良いです。固まっても水を多量に含んでいるため固まって直ぐの注湯は石膏内の水が沸騰し合金が溢れたり飛び散ったりして危険です。また、合金が固まっても空洞が出来てしまったりもします。
ピューター合金の融解ですが、融解し始めると表面にゴミ(?)が出ます。木切れなどで除去します。注湯する温度は木切れに焦げ付きが出来る程度を目安にします。注湯量は少し溢れる程度です。冷えた際のヒケを考慮します。ヒケの量は5%くらいと感じました。
型から外す時は十分に冷えていることを確認してから行います。最低30分は必要です。
砂型と石膏型とを比較すると、石膏型の方が圧倒的に綺麗です。
砂型のものは、砂の質が悪いこともあり合金内に砂が混じり除去し辛く表面も灰色でザラついており、ワイヤブラシでは綺麗にならずマイクログラインダの研磨では刃の磨耗も激しく直ぐに使い物にならなくなりました。
石膏型のものは型から外した段階で銀白色で、表面に埋もれているスチロールのカスや石膏はポンチの先などで容易に除去でき、黒い汚れもありません。その後ワイヤブラシが効果的です。
石膏型は型を使い捨てることになりますが1kgで300円程度で容易に入手でき、型抜き直後で綺麗であることからマイクログラインダの時間がほとんどなく仕上がりが早く、次回からは石膏型にしようと思います。
ワイヤブラシは真鍮製のものを使用します。サンドペーパーの番数で言えば#1000くらいの仕上がりになります。モノが柔らかいので鉄製のワイヤブラシで研磨すると削れてしまいます。
また、バリや余分な部分の除去は金工用の鋸とヤスリを使います。回転式のグラインダでは合金が柔らかいため砥石が直ぐに目詰まりしその掃除が大変です。手作業の方が早く綺麗です。
最終仕上げでの面出し、研磨もほとんどヤスリとワイヤブラシとなります。マイクログラインダは引っ掛かるバリの除去程度です。
マイクログラインダの刃ですが、ハイス鋼の刃は直ぐに磨耗してしまい、砥石製、ダイヤモンド製は直ぐに目詰まりしてしまいます。仕方がないと諦めています。
以上がピューター合金鋳物での制作工程です。
手軽に出来ます。オリジナルのツマミ、把手の制作手法の一つです。
※完成写真は赤茶けて写っていますが、実物は銀白色です。
おまけ
今朝、ウォーキングの帰りに近所のおばさんから野菜をいただきました。大根3本に白菜など。大根、白菜の保存は水洗いした後に養生用のラップで包みます。水分が蒸発せず瑞々しさが長持ちします。新聞紙で包むと水分が吸収されて直ぐにシワシワになります。養生用ラップ、野菜も養生してくれる!!
愚痴
漆塗り、こんなに好条件なのに乾いてくれない(涙)!!まだ4回目……