久しぶりに拭漆

久しぶりに拭漆(透き漆)仕上げでの仏壇制作です(デザインは依頼元)。
拭漆仕上げは、組み立てる前に部材を漆で仕上げることが基本であるため、寸法精度、表面の仕上げは随分気が張ります。

自分なりの拭漆

先日、小谷漆店のご主人と話していた際に
「漆の塗り方は、人それぞれ。経験の中から自分が良いと思う塗り方をしている。どの塗り方が正解ということはないだろう」と頷き合っておりました。
わたしも幾らかの経験から自分なりに良いと思う塗り方をしています。が、その都度微妙に変えています。漆の浸透具合、色、艶の具合が材によって微妙に違うからです。そのため、初回に漆に溶剤を加えない時もあれば逆に漆の2割ほどの量の溶剤で希釈する場合もあります。また塗る回数は最低6回、多い時では10回程度。6回までは塗り重ねるごとに毎回色、艶が明らかに変わります。6回目以降は微妙な変化で塗り重ねる度ごとの変化は見分けが付きません。ただし、6回のものと10数回のものとを比較すると明らかに違いますが‥‥。言い過ぎになるかもしれませんが、美術工芸品でなく日常使う家具での拭漆では最低6回で十分と感じています。それ以上塗り重ねる場合は色、艶が思うように出てこない場合か、中途半端に漆を使い残した場合か、わたしの自己満足か、です。
拭漆では下地作りが大切ですが、どれだけ綺麗に拭き取るかが最も重要とわたしは思っています。仕上がりを大きく左右します。

今回の漆は松煙を用いて黒っぽくします。最終まで毎回松煙を混ぜ合わせた漆を塗るわけではありません。後半は漆のみとします。それは松煙が煤(すす)とはいえ漆の粒子より粗いためにザラつきが生じるからです。後半を漆のみとして漆の粘性を生かしてザラつきを覆うわけです。もちろん毎回塗る前には研ぎを行います。
漆のみと松煙を加えた拭漆の経年変化を比較すると、漆のみの場合は徐々に明るくなってくるのですが、松煙を加えた場合、漆が明るくなる分松煙の黒が強く感じられるようになります。

さて、今回仕上がりはどうなるでしょうか??

仏壇構成部材

おまけ

先日、朝のウォーキングから帰ると金継ぎをやっている三重県の知人・Kさんの車が家の前に停まったところ。Yさんと越前の漆屋さんに行くとのことで、わたしも同行させてもらいました。
行き先は箕輪漆行。こちらに越してくる前は箕輪さんの所を遠く感じていたのですが、今現在1時間半程の距離となり妙に近く感じました。


箕輪さんは以前の作業所に2度来られたことがあり、わたしのことをわずかに覚えていてくれました。漆を買っていればしっかり覚えていてくれたのでしょうが‥‥。
Kさんの目的は金継ぎで使う『ねずみ筆』。使っている筆が腰が弱いなど芳しくなく『ねずみ筆』を知り欲しくなったとのこと。小谷さんのところへ先日伺った際に尋ねたのですが金継ぎの道具は取り扱っておらず、Kさんが箕輪さんのところにあることを確認し、足を運ぶことになったのです。
Kさんの訪問経緯を伝え、3人で『ねずみ筆』を拝見し説明を受けました。

ネズミ筆

『ねずみ筆』を作っていたのは東大阪市の大野久夫さんという方で既に他界されており、後継者がいないためここにあるものが箕輪さんの全在庫(8本ほど)ということでした。爪楊枝程の細さで1本数万円。木工屋ならばそれなりの鉋が買えます。道具とはそういうもののようです。
『ねずみ筆』はねずみの毛から作られているのですが、聞こえが悪いため『根朱筆』という名称が付けられたそうです。
※『ネズミ筆』のネズミの種類や毛については上段のリンク先を参考にしてください。
Kさんは一本購入し、筆の洗浄用に樟脳油も合わせて購入しました。漆で使うテレピン油などの溶剤では筆の根元の溶剤が綺麗に落ちないからです。樟脳油の方が綺麗に洗浄できると勧められました。
わたしが拭漆を始めた当初、漆・カシュー用の小さな刷毛を使ったことがあります。使った後洗浄したつもりでも徐々に根元から固まり、直ぐに使えなくなりました。
貴重な『ねずみ筆』、使い捨てるには勿体無い。

久しぶりに拭漆」への4件のフィードバック

  1. 最近の蒔絵筆は以前の蒔絵筆より劣っていると聞きましたが具体的にはどの様な違いがあるのでしょうか?

    1. 長谷川さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      わたしは蒔絵筆を使ったことがありませんので、わかりません。
      箕輪漆行さんが関連する筆なども数多く扱っていらっしゃいますから、お尋ねされては如何でしょうか。電話でも丁寧に対応してくれます。

  2. 松煙はどこで販売していますか
    インターネットで取り寄せましたら漆喰用と黒磨きに使用と書いてありましたがこれでは漆には使用できませんか

  3. さあ、どうなんでしょうか?
    わたしは、自分で使っているものしか判断できません。
    試してみてはどうですか?
    漆は油膜や塩分が含まれる材にはダメですが、それ以外は大抵大丈夫ですから、いろいろなパターンを試されるとご自身のノウハウになると思います。
    松煙の入手先は、漆屋さんや墨メーカーなどから辿っていけば見つかると思います。直接電話で問い合わせると、皆さん丁寧に応えてくれます。

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