大垣技能専門校時代にデザインした椅子を作っておきたいなぁと数年に一度思うのでした。大きな材が必要になること、構造的に見直す箇所が多くあることなどからなかなか踏み出せませんでした。2年前にあまり質が良いとは言えない栃の厚材を入手していたこともあり取り掛かることにしました。
Shadeでの3D画像の作成
大垣技専時代、同級生(わたしよりずいぶん若い!)から「Shade」というソフトで作成した画像を見せられました。いやいや驚きました!自宅PCで3D画像の作成が出来る!しかも大垣技専に通っているためソフト購入も学生割引となる!確か3〜4割引で3万5,000円程度だったと記憶しています。即買いです。
MacでIllustrator、Photoshopを長く使っていたので大きな抵抗もなく入ることが出来ました。
Shade Personal R5の特徴
- 画像を360度見ることができる
- 光源の数、角度、光量の設定ができる
- 抽斗を入力しておけば、出し入れできる
- 材の選択が可能(木は数種類)
- etc.
ただ不便な点もありました。
数値入力での画像作成になるので、各部材ごとに詳細情報入力が必要になるために非常に時間を要する。にも拘らず入力した数値が画像上に表すことが出来ない。ということが残念でした。(バージョンアップで解決されたと聞きます)ですから、画像として見たり見せたりするには良いツールですが、制作側の立場からは余り実用的ではありませんでした。また、家具職人さんから画像依頼があって作成して渡したところ、「画像が正確でリアルすぎると、納品した際に現物とのギャップが出てしまう。モノクロで背景なしにして欲しい」とのこと。少しばかりショックを受けながらも、なるほど、と思ったこともありました。
結局、わたしは2、3年使ったもののバージョンアップすることなく使わなくなりました。
デザインの見直し
木工屋になってからの経験で3D画像の見直しを図っていきます。
強度
各部材の形状を作ることは可能です。単なる置き物としてなら見直す必要などないのですが、人が座るという動作に耐える構造的強度を持っているかが1番目の見直し課題です。
単一の材ならばそれなりの厚さや太さ、木目に倣う木取りなどで対応ができます。単純な座板と脚のみのスツールであっても体重移動による重心の変化に耐える構造が必要で、脚を四方転びにしたり横桟や幕板で補強する必要があります。
背もたれが付く小椅子や肘掛け椅子ではもたれる動作や肘掛け動作に対応する強度が加わります。
「残ってた材で子供椅子2」(2021.06-Blog)で書きましたが、子供はどんな風にでも使いまくりデストロイヤーとなります。つまり人は子供に限らず大人になっても椅子に上品に座るだけではなくどんな風に使うかわからない、ということを頭の中に置いておかねばなりません。勝手な使い方を全面的に克服することなど出来ませんが、日常的に椅子として使われる構造的強度を持たせる必要が出てきます。
脚が地に垂直に近い状態ならば横桟や幕板で補うことが出来ますが、原案のように前脚が斜めのレイアウトだと垂直4本脚とは力点が変わってきます。その力点を補う構造が必要になります。
形状
3Dの原案を崩したくないと思っていても、部材の形状、その形状の強度、部材のジョイント方法などを詰めていくと原案が構造物のデザインではなく、立体を想像し描いたイメージ平面画なのだ、と思い至ります。
もちろん各種の金具類、ビスなど使えば作れないわけではありませんが、木工屋ですのでジョイントはしっかりしていたいのです。
またR形状を多用した原案、曲げ木で対応することも出来るでしょうがその設備はなくR部材をつなぎ合わせて行かねばならずカタチは出来ても強度面が不安です。可能な限りひとつの材から木目に倣う形で木取りする方が強度もあり形状も綺麗です。
見直し
肘掛けの位置や形状、笠木とのジョイント、クロスさせた前後の脚など見直すアイディアスケッチを描き出していくのですが、原案からどんどん情けない形状に変わって行きました。
そこで横から見て重視したいラインをシンプルに押さえ、ジョイント部分を設計します。
とくに笠木は前後の脚と背もたれを組むことで重要な部材と位置付けました。
原寸図面
椅子の制作そのものが手加工は多いですが、今回デザインの見直し時点で枘、面取りも手加工を主とした制作になることを前提としていました。そのためCADでの作図ではなく原寸図面を選択しました。原寸図面の方がRのライン、ジョイントの形状など木取りに即応し易く修正も早く出来ます。
用紙は市販されている50mm方眼です。もっと精度があって湿度に左右されにくいものをと毎回思います。SUSスケールを置くと500mmで3〜5mm用紙が伸びていることがあります。(望む模造紙 50mm方眼罫をメーカーに問い合わせ中)
原寸図面を引くのは椅子類が多いです。模造紙の大きさも関係しますが。わたしは座刳り前の座面を3度傾斜にすることが多いのですが、作図時は座面のラインを罫線に合わせます。地のラインを最後に3度傾斜で引けば済みます。その方が背もたれ角や肘掛け角なども作図し易いです。
制作
基本となる部材の面出し、カネ出し、厚み出し、枘穴、バンドソーでの粗木取りなどは機械加工となります。座刳りはもちろんですが曲面、面取りなどは反り台鉋、南京鉋の活躍です。手道具はどれもそうですが使えば使うほどその特性やクセが判ってきて思い通りに働いてくれます。判ってくるとデザインの範囲も広がります。
以下、制作した椅子の特徴的なところを書いていきます。
笠木
前後の脚と背もたれを組み込む笠木は500mm × 200 × 50の材から削り出します。
内Rの切削は「木工作業の工夫12(内Rの切削)」(2022.05ーBlog)で書いたように鋸目を細かく入れてトンカチで落として鉋仕上げです。
笠木に入る前後の脚と背もたれのラインはそれぞれ違います。枘の角度をそれぞれのラインに合わせると3方向になり組み上げることが難しくなります。そのため枘の角度を同じにしています。枘方向が一つになり締結もやり良くなります。また笠木上部のR切削は最終に残しておきます。笠木を叩く、締結する際、Rだと上手く出来ません。
組み上げてから笠木の仕上げ切削を行います。前後の脚のライン(角度)が違うため内側は3次局面にしてラインを浮かばせました。同様に外側もラインを生かしたR切削をしています。
前脚と肘掛けの組み
前脚と肘掛けの組みは少し面倒な構造にしました。わたしが以前からやっている構造は一般的な抱かせ枘組みです。脚側に抱かせ部分を欠き取ることもあります。今回は肘掛け上下を脚のラインとRで繋ぎたいため、上下それぞれの枘角1/2の形状としています。またその流れを抱かせ部分にも広げてより強度を確保する構造としています。加工後、も少し良い形状があるのでは‥‥などと。
座板への蟻桟
前脚が斜めであるため座板を支える位置は座板のほぼ中央付近です。座板への蟻桟はそれより50mmほど前寄りにしています。座板の前側への荷重を出来るだけ吸収するためです。蟻桟の高さも100mmと高くして若干ですが前脚の下側に荷重するよう設計しています。
座板
座板の形状ですが前部を内Rとしました。原案からのものです。原案では前部両橋に脚と肘掛けの両端が来るように考えていたので内Rとしたのです。見直しでは全体が大きく変わりましたがイメージは変わらないので変更しませんでした。両端がとんがった形状ですが座ってカラダを降っても全く問題ありません。前から見ると両端が垂れた感じです。
終わりに
木工屋になって間もない頃、美術系の学生かデザイナーかはっきり覚えていませんがデザインしたシェルフの制作依頼がありました。図面を送ってもらい、不安定さ、強度確保、木材特性などを連絡し再考をお願いしたのですが受け入れてもらえずキャンセルとなりました。
前述したように‥‥構造物のデザインではなく、立体を想像し描いたイメージ平面画なのだ‥‥ということです。
今回、過去のデザインを敢えて掲載したのは、デザイナー:制作者という2者の関係はひとつの個人の中にもあるということも言いたかったのです。個人では修正出来ますが‥‥。
また、手加工を主とした作業をしておけば「ここは傾斜盤じゃ無理だな。手鋸だ」「この面取りトリマじゃイメージが違う。反り台鉋だな」といった感じで、デザインの範囲が広がるものです。機械加工を否定する気は全くありません。思ったように機械加工ができればそれに越したことはないです。
充実した木工作業を送りたいですね。