小粋な天秤指しを以前からやろうと思っていたのですが、使う場面もなかったことから手を出さずにいました。
が、拝読している宮本家具工房の月間記事の9月と10月に「ダブテイル」が書かれていて、記事の中にある『二等辺三角形の窓を開けたガイド付き定規』が目に止まり、やってみるかな、となりました。使う材は米ヒバの2枚接ぎです。端材の中から加工し易い材を選びました。
先ずは、記事に書かれている手順に沿って従順に進めてみることにします。初っ端から自身の経験を入れて作業するより、書かれてある手順で進めることで未経験な部分、自身の改善すべき点も見え、次のステップに踏み出せると思っているからです。ただ、10月の記事掲載前に作業が終わってしまい、ピン側の作業は自分勝手に進めてしまいましたが‥‥まっ、良いか。
天秤指しの練習
二等辺三角形の窓を開けたガイド付き定規
この定規を作る前に、「木工の継手と仕口 増補版」(鳥海義之助著 理工学社)に書かれている「蟻型傾斜角とその用途」に目を通しました。縦10に対し、3.5は70度、3は75度、2は80度となっています。正確な角度は、3.5は70.71度、3は73.30度、2は78.69度となるわけですが、木工作業では板厚や板幅を基準値1として寸法採りをすることが基本でもあり、正確な70度、75度、80度より、10:3.5、10:3、10:2の方が合理的と考えます。ただルーターや傾斜盤などの機械による加工では70度、75度、80度の方が適しているでしょう。
定規ですが、幅300mm、縦120mmのシナ合板に、CADで描いた図面を貼って作りました。
上下20mmの間に高さ80mmの二等辺三角形が入ります。特に上の20mmは墨付けの際に有効な余白です。最も使うであろう80度を真ん中にして左右に今後使うかもしれない70度と75度をレイアウトしています。マス目と中心線は墨付け、加工時に重要になります。図面を貼り付ける糊はスプレー糊を使います。水性の糊では紙が歪みます。また、定規の周りと三角形の中は接着剤を塗り硬くしてサンディンングしておき長く使えるようにしておきます。幅を300mmとしたのは、実際の墨付け時に定規をスムーズに横方向にスライドできること、クランプ等での固定スペース確保を目的としています。
天秤用定規と正確な角度のCAD図面
天秤定規の裏
墨付け
わたしも宮本さんと同じく蟻組は今までピンファースト(オス側から)でしたが、今回は記事で書かれているようにテイルファースト(メス側から)で進めることにします。
墨付けは2枚の板を重ね、ピンのセンターラインを毛引き基準線とします。定規には上部に直尺(300mm、幅25mm)を固定します。三角形頂点から5mm入ったところからの墨付けとなります。上縁部は1.5mmくらいです。定規を横にスライドさせながらセンターラインに合わせてピン側、テイル側ともに墨付けしていきます。墨付けは容易です。
幅の広いピンにしたいときは25mm幅の直尺でなくても好みの幅の薄板を固定すれば済みます。
墨付け
テイル側の加工
0.3mm芯の製図用シャープペンで毛引いた線内に薄刃の鋸を入れます。
使う鋸は胴付き鋸が一般的なのでしょうが、わたしは何故か胴付き鋸だと思い通りに切れない。下手なのは百も承知なのですが、胴付きだと背金の重みで振られてしまうのか上手くいかない。背金がなく胴付きよりもわずかに刃数が少ない薄刃の堅木用の方がわたしは上手く切れます。
鑿でテイルを彫ります。鋸の切削面は鑿は当てず、テイルの底のみ凸になっていないか確認して鑿を当てます。
テイル側の加工
ピン側の加工
ここからは、月間記事10月分になるのですが、記事掲載前に作業を終わらせたため、自己流となります。
墨付けをテイル側、ピン側同時に行っているため、先行したテイル側の加工ラインとピン側の墨付けラインを照合します。修正箇所がなかったことからピン側の加工に入ります。今度は毛引きの線外に板の裏表から鋸を入れます。
ピンを残すために鑿を入れていきます。わたしは斜めに鑿を入れるのが上手くありません。組んでしまえば見えないところとなるのですが、組む前も綺麗に仕上げたい。そのため、斜め部分を残して垂直に裏表から落としていきます。斜め部分は薄鑿で削ぐように木口から刃を入れ鑿や小刀等で落とします。木口の面もこぼれることはありません。組めば見えなくなる箇所ではありますが。
ピン側の加工
微調整して組みへ
ピン側の加工が済んだら、テイル側との嵌り具合を確認します。キツメの箇所をチェックしてマーキングしていきます。
嵌り具合の確認
微調整はピン側のみです。キツメの部分を落としていくのですが、わたしは10:2(80度)の当て木を使い薄鑿で斜めに削ぎます。木口から鑿を入れると逆目の場合鑿が入り込んでピン形状を壊すことがあり綺麗に仕上がりません。
ピンの微調整
手で押し込んで半分くらいまで入ればOKとします。
今回は両端5mmを留めとしています。一般的に両端は半ピンとしているようです。見栄えもそちらの方が良さそうです。ま、今回は練習ということで。
またピンの長さを板厚より2mmプラスしています。ピンが出っ張った外観を確認したかったからです。
天秤指しの組み
終わりに
今回は手作業を主とした加工です。多くの場面で機械加工が可能なところに出くわします。機械を用いた方が早くて綺麗に仕上がる箇所もたくさんあります。ただ、手加工をすると機械は手の延長線上にあるということを再認識することができます。また、手加工でしか出来ない場面では、機械に依存しすぎない木工デザインの広がりとともに自らの未熟な技能を思い知ることができます。それは重要なことと感じています。
天秤指しのきっかけを作ってくださった宮本家具工房さんに感謝です。ありがとうございました。
おまけ
小石が敷き詰められている庭のガリガリジャリジャリの地面をシマヘビが頭で掘り始めていた。
3年前、同じことをしていて「こんな固い地面に何しとる?産卵?モグラでもいるんか?目的は何やろ?」と椅子を持って来て30分くらいずっと観ていた。風向きが変わってわたしに感付いて離れていった。「何やろ?不可思議や」と木工仲間の若森さんに話したら、「それを観とるアンタが不可思議や」と笑われた。
今回もまた「何しとる?」と椅子を持って来てずっと観ていた。やっぱり不可思議‥‥
流石みしょうさん、アリ(天秤差し)が美しい。こんな手加工、手間はかかりますが、楽しいですね。もうちょっと目がいいと、より楽しいのですが・・・。
良さん、おはようございます。今回はお世話になりました。
ほんと、目が良いともっと楽しめますね。作業中は遠近両用のメガネを掛けているのですが、時たま見えないことに苛立ちメガネを取っ払って投げ捨てたくなることがあったりします。
押入れに隠れてエロ本を見てはいないのですが‥‥(笑)
さきほど「天秤差しの練習」の紹介で、このブログを月刊記事に追記としてリンクを掲載させていただきました。ご了解のほどよろしくお願いします。
ありがとうございます。
月間記事読者の方や生徒さんにお役に立てる事柄があれば幸いです。
「おまけ」、シマヘビではなく”金木犀と赤とんぼ”にしておけば良かった
(^_^;)
美しいではありませんか。
次は、この成果を実践的に活用し、美しいキャビネットにチャレンジしましょう。
私も天秤差しでいくつものキャビネットを作ってきていますが、プロセス、手法はかなり違いますので、楽しく拝察。勉強になります。
手加工であれ、機械加工であれ、そのコンビネーションであれ、多彩な技法を備えていることで、様々な対象により適切に、目的合理性に富んだ手法が使いこなせますので、どんどん実践しましょう。
artisanさん、お久しぶり?です。
天秤指しでのキャビネット、魅力的ですね。チャレンジします。今、違った物体(?)で天秤指しをやっています。完成したらBlogにアップします。
仰る通り手加工・機械加工とも多くの技法を身に付けておくとバリエーッションが広がり、デザインも自由度が増しますね。今後も様々な手法を練習していきたいと思います。