漆の美と時間 

 

カードボード(トチ、拭き漆)

木工の制作工程で、徹夜すれば何とかなるものと自身ではどうにもならない工程があります。仕上げの拭き漆(透き漆)です。
器物や固体でない場合、例えば箱物ですと部材ごとに漆で仕上げて組み上げて行くため、框組(かまちぐみ)の鏡板等は組み上げる1週間以上前に漆で仕上げるなど、全ての部材の木取りや加工など効率良く仕事を進める段取りを決めておく必要があります。
工程はさておき、わたしはこの拭き漆が仕上げの中で一番美しいと思っています。
最低6回は塗り重ねて行くのですが、夏を迎える今の季節ですと日に2回、冬場ですと室に入れていても2日に1回ということもあります。
速く乾く漆も市場に出ているようですが、わたしは従来からの漆を使います。
漆が乾いていく時間はわたしの手から離れた時間・漆任せという工程です。
拭き漆は塗り重ねる毎にその表情は美しさを増して行きます。
様々な加工工程の中で「漆任せ」を迎える時、「あくせくしても仕方がないのだから」と自身に言い聞かせます。それは美を迎える前の静かな時間であり、大切にしたい時間です。(もしかすると、「恋愛」に似ているのかもしれない。)
※漆は乾くと言うより、大気中の水分と反応して固形。気温20°、湿度80%が最適。

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