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昔、ジョンという野良犬がいた

60年ほど前のことだからもう昔と言って良いのかなぁ。石川の実家がある町に「ジョン」という雄の野良犬がいた。誰が「ジョン」と名付けたかは分からないが町の誰もが「ジョン」と呼んでいた。

「ジョン」は茶色の中型犬で、「ジョン」より少し小さい黒色と茶色の2匹の3匹で町にいた。記憶の中では「ジョン」を認識し始めた当初は「ジョン」1匹だったと思う。いつのまにか3匹になっていた。首輪は無く誰かに飼われているのでもない。横に3kmほどの小さな田舎町に住んでいた。町の誰かに尻尾を振ったり甘えることはなかったし、人に吠えたり危害を加えることもなかった。2匹を従えて町の通りを歩いているその姿は凛としていた。まるで町を見回っているようにも感じた。
ある日、通りを挟んで向かいのおばさんが家の玄関付近に「ジョン」たち3匹用に食事を置いていた。おばさんが食事の皿を置こうとしている時に黒の方がせがむように近づいた時、「ジョン」は黒を吠えたてた。おばさんがそこから離れるまで口にしてはいけないようだ。「ジョン」が決めたルールなのだろう。そのおばさんにも尻尾を振ることはなかった。
わたしの知る限り、老若男女町の誰もが「ジョン」たちを邪魔者扱いすることはなかったし追い払うこともない。人に危害を加えることが無かったからだろう。町の日常の風景の中にあった。

威厳さえ感じさせる「ジョン」は、子供たちからすればある意味で怖いという印象が強く、小学校では「「ジョン」の頭撫でた!」と自慢する子もいた。撫でると言うより怖くて頭に手を置くのが精一杯なのだが‥‥。わたしもその一人。頭を撫でても目を合わすことは無く尻尾を振ることも無く、ただ真っ直ぐ前を見ていた。
小学校の図工の宿題だっただろうか、「ジョン」の絵を描いた記憶がある。「ジョン」に憧れみたいなものを感じて惹かれていたからだろう。

どこで生まれてこの町に住み、そしていつ消えていったのか。きっと誰も知らない。
今は野良犬など見かけることはない。

時を経るごとに、時間、場所、行動、交流、コストなど様々なものが細分化され損得重視で評価されるようになってきている。自国(自己)第一主義、権威主義etc.はこれらに拍車をかけてはいないだろうか。
排除ではなく伸びやかに他者を受け入れ共存していることが当たり前にはならないのだろうか。
もう「ジョン」と「ジョン」がいる町は生まれないのだろうか。