ほぞ(枘)のこと 

大工さん、建具屋さん、家具屋さんなど木の加工をする人にとって、継手や仕口は最も重要視されることは周知のこと。そして国を問わずその歴史は長く、その方法、種類はとてつもなく多い。
多くの継手や仕口を知っていることはとても大切なことではあるけれど、わたしたち木工屋は個々人、メインとして多用する数種の組み方を持っていて、制作物のデザイン、材のサイズに合わせて幅、長さ、深さの調整を行っている。そうでもしないと、角鑿の交換や位置決め、傾斜盤の刃高調整等加工に入るまでに時間が費やされ効率が悪くなってしまい、精度も出難い。組み方や寸法の数は少なければ少ないほど効率は良い。経験豊かな人は、全体のデザイン、部材の寸法、そして加工、継手や仕口の方法、寸法まで全てを眺望し効率的な作業手順を立てていることは想像に難くない。

多用しているメインの枘組み

二枚枘わたしが多用しているメインの枘組みは「四方胴付き二枚平枘接ぎ」。良く言う二枚枘。ただ枘と枘の間は高くしてある。これを基本として材のサイズに合わせて幅、長さ、深さの調整、小根付きにしたりなどしている。

 

 

 

どうして枘と枘の間を高くしているか

木工を始めた当初は、この二枚枘の間は胴付き部分と同じ面だった。ある時、6mm厚の二枚枘でのこと、こんなことを思った。

  • 枘の間の加工に一手間掛かる。
  • 二つ目の枘穴を開ける時、角鑿の位置決めに直尺で確認しなければならない。

さらに極め付けは、

  • 組んでいる時に枘が折れてしまった。

これらの経験から、枘と枘の間を高くすることにした。わたしは勝手に2.5枚枘と呼んでいる。この枘だと

  • 枘の間の加工が楽。
  • 角鑿の位置決めは、一つ目の枘穴の後、その枘穴に沿って間の枘穴、同様に二つ目の枘穴加工。直尺の確認がいらない。(基準面からの位置決め)
  • 二枚の枘の間を高くすることで、枘の強度が増す。
  • 接合面が多くなることで組み上がった時の強度も増す。

加工が楽になり強度も増す。結構、自己満足!

木工の諸先輩からすれば「常識今更言うことじゃないよ。」と言われるかもしれない。かな?

 

枘に一手間

枘組みで胴付き面が隙間なく組み上がるのは何年経っても気持ち良く、ホッとする。毎回上手く行くわけでなく問題が生じることもある。
長い枘の場合、枘穴を枘の長さより深めに掘っているにも拘らず収まりきらないことがそのひとつ。

組み込んでいる枘穴の中は空気と接着剤が入っている。注射器の先を塞いでピストンを押すようなもの。導管が比較的大きなクルミやタモなどは導管から空気と接着剤が比較的逃げ易いが、木目の細かい硬質な山桜などは逃げ場は無いに等しい。枘穴の底は底糊(そこのり)と言って接着剤で満たすのが良いとされ※1、少しばかり多目に塗る場合もしばしば。
逃げ場のない空気と接着剤は、時にピストンである枘を跳ね返して来る。これを抑えるためもありクランプや端金で固定するのだけれど、結構無理して抑え込むことがある。「コナクソーッ!」と唸りながら‥‥。そうすると材が捻れた状態で固定してしまう。とりわけポニークランプは力を入れ易いこともあり、捻れが生じ易い。

空気と接着剤の逃げ道そこで思い付いたのは、枘に空気と接着剤の逃げ道を作ること。写真のように彫刻刀の線彫り(三角刀)で両面に逃げ溝を入れる。ほんの一手間で跳ね返りは解消される。当然跳ね返りがないために、クランプを「コナクソーッ!」と唸りながら締めることもなくなり捻れも生じ難い。底糊も十分となる。

この一手間は全ての枘で行っているわけではない。それをやっていたら大変だ。長い場合、幅広の場合、木目の細かい硬質材の場合などに手を入れている。

一度、お試しあれ!

※1<底糊>:木の仕事の会「接着剤セミナー」で教わりました。
講師:株式会社オーシカ 名古屋営業所 松崎 力 様
2009年2月17日 <企画担当/進行:はやし弘志>

ほぞ(枘)のこと 」への2件のフィードバック

  1. 底糊:接着剤で満たすのが良い

    ですが、もそっと、詳しく展開していただければありがたく。
    悔しいですが、凡夫にはそのメリットが読めませぬ。

    エポキシなど完全に固化するもので、かつ適正な分量(研究施設ならいざ知らず、現場でのこと)であれば、分からないわけでは無いですね。

    ウ〜ッム、奥深い

  2. artisanさん。こんにちは。
    返信遅くなり申し訳ありませんでした。(除雪しておりました)
    少し長くなりますので、Blogに追加させてもらいます。

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