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フリーデスクの制作

フリーデスク 天板角度と高さを調整できるキャスター付きのフリーデスク(可動机)の制作です。フリーデスクという名称はわたしが勝手に付けたものです。

天板のサイズは、幅:620mm、奥行き:400mm、厚さ:20mmで、天板角度は5°、35°に設定、天板軸上の高さは600〜900mmに自由設定出来ます。脚部はキャスター3点支持としています。材はストックしている岩手産のナラを使っています。国産のナラも希少な材となりました。

構造

このフリーデスクの基本的な構造は譜面台の展開で、支柱や角度調整、ノブの構造はほぼ同様です。
天板は2枚接ぎで左右に端嵌めを、手前と奥にストッパーとなる筆返し(?)を施しています。

支柱はアウター上部に高さ固定のノブが付きます。ダイレクトにインナーを締めるとインナーが傷付くため内側にアルミ板を置き、インナーをほぼ面で固定する構造です。アウターとインナーの隙間を0コンマ数mmに仕上げることで、エアサスペンションのように緩やかに上げ下げ出来ます。

天板は角度調整が行えます。当初は天板裏の軸受けとインナーをノブ(ボルト、鬼目ナット)で締めるのみの方法でしたが、天板の重量、使用時に手を置くなどで角度が変わってしまいます。対策として、材に食い込むだろうとPP板やシリコン板、ワッシャーに放射状のギザギザを入れて裏側に材に食い込む加工を施したものを試してみたのですが、逆に滑りが良くなってしまう結果となり、これらの方法は断念しました。

加工したワッシャー

模索を続け、最終的に最も良く使うであろう5°と35°の位置にピン固定することしました。角度固定位置をもっと増やそうかとも思ったのですが、ピン穴が増えて煩雑になりピン穴の破損も懸念されるため二つに絞ったわけです。
天板の角度調整は、支柱のインナーと天板側に支柱のインナーを挟む2枚の軸受けからなります。

脚部は馬乗りで組んだT字の3点支持としています。H型の4点支持も考えたのですが、キャスター で移動できる方式をとるため、平滑な床面であっても場所によっては4点のうち1点が浮いてしまうことがあります。3点支持では確実に床面に落ち着きます。
また、3点支持とすることで支柱位置が微妙です。手前過ぎるとワーキング中に左右に触れやすく、奥過ぎると奥に倒れやすくなります。
脚部と支柱は通し枘で楔をを挿して固定しています。
キャスターは小径38mm∅ホイール、ホイールは合成ゴム製、3個ともストッパー付きです。小径ホイールとしたのは回転するキャスター の支点位置の変化が小さいこと、ホイールを樹脂製ではなく合成ゴム製を選択したのは、床面で滑りにくく床を傷付けにくいということからです。

ノブの構造

ノブは本体同様にナラの削り出しとしています。15mm角の材にボルトのヘッドを収めてノブ本体に組み込みます。形状、構造も譜面台で使ったものと同様です。

 

おまけ

5月16日、豊田市美術館で開催されていた『黒田辰秋 木と漆と螺鈿の旅』(3月15日〜5月18日)へ行ってきました。彼の作品を観覧するのは数年振りです。今回の展示数は確か200点くらいであったかと思います。これだけの作品を目にすることが出来たことは嬉しい限りです。

作品の豪快さに圧倒されながら、素朴に、これほどの材はもう入手出来ない時代になっているんだなぁ、と‥‥

「木工からつくる展」に参加

「木工家ウィークNAGOYA 2024」(メイン:6月7日(金)から6月9日(日)まで) の企画のひとつ「木工からつくる展・机と椅子と」に参加します。

場所は、「文化のみち撞木館」(10:00〜17:00 月曜休館 入館料:200円)。開催期間は、6月7日(金)から6月21日(金)まで。

今回は、マホガニーのサイドテーブル、トチのサイドテーブル、トチの肘掛け椅子、ナラの肘掛け椅子、の4点を出品します。
4点とも手加工を主としています。機械加工を否定しているわけではありません。機械加工ではどうしても加工能力の範囲内にデザインされてしまいがちになるため、今回の4点は初期デザインの自由度を重視したということです。

「木工家ウィークNAGOYA 2024」公式サイト
https://www.woodworkers.jp

 

WW用チラシ

ウクライナ、GAZAで心が痛む中、1月1日の実家のある石川県での能登地震……実家は大きな被害は無かったものの友人の実家は大きな被害があった。これから先、どのような復興がなされるのだろうか。住民の希望に可能な限り寄り添ってもらいたい。

ちょっと変わった端嵌め

一枚板の扉で映えのある端嵌めですが、加工には精度が必要なため神経を使います。切削加工も寸分違わぬ表裏同一形状、また、使う工具もルーターやトリマ、切削治具‥‥。
そこで今回容易に加工できる形状を考えました。
表裏の形状は異なり、ルーターやトリマ、切削治具も使わない方法です。

扉の全体1

 

今回の扉は小振りの仏壇用で、左右それぞれ2枚の折戸です。扉を開けた際2枚の扉の裏側が重なります。また1枚の扉の幅が80mmと85mmと小振りです。今までやってきた神経を使う端嵌め加工だと小振りなこともありより加工が面倒となるため、考案しました。
表は端嵌め部分が板より3mm厚く留め形状、裏は板と面一で長方形です。
嵌め合い部分ですが、板は両端が端嵌めへの通し枘、中央の大きい欠き取りは端嵌め幅より3mm小さく、通し枘内側は留めラインに掛からない枘としています。板の表側は板面のままで切削なし、裏側は嵌め合いの厚みを残してカットしています。
端嵌め形状は、表側が板の欠き取りに被さる留め形状、裏側はそのままです。

加工は非常にシンプルです。
板に留め加工が無いため、欠き取りは傾斜盤のみで特別な治具を用いることもありません。
端嵌めの加工では、板と嵌め合うところは溝切りカッターで切削し、両端は角鑿盤で溝に沿わせて枘穴加工、表の留め部分は傾斜盤や横切り盤で切削、となります。
以上です。

端嵌め側面

今回考案した「ちょっと変わった端嵌め」は、表側に端嵌め部分が盛り上がった形状です。板は黒柿、端嵌めは山桑で色合いが大きく違うため、表裏とも面一の通常の端嵌めであっても「端嵌めが成されていることは明瞭」、ならば端嵌めを盛り上がらせても違和感がない、という判断です。ですから逆に同一材の場合は見栄えがあまり良くないかもしれません。
通常の端嵌めは、板幅が300mmくらいを超えると経年変化による材の伸縮による留め部分の剥がれ、板割れが懸念されます。今回の端嵌めも同じことが言えます。端嵌め構造の宿命かと思いますので、それを承知の上で設計する必要があります。

仏壇のメンテナンス

2009年に制作した仏壇(厨子4)のメンテナンスを行いました。

14年経つと経年変化が良く判ります。構造的な不具合はありませんでしたが、楢の拭漆仕上げの本体は全体が明るくなり、栃の杢板の鏡板も拭漆仕上げですが制作当初は明るく本体とのコントラストが魅力でしたが、ヤケが入り本体と同じくらいの風合いになっていました。楢はもともとヤケが入りにくい材です。仕上げの漆が明るくなったのです。ところが栃は漆が明るくなる以上にヤケが入ったことになります。少し驚きでもあります。

2009年制作時

2023年メンテナンス後

 

 

メンテナンス

今回のメンテナンスは

  • ピューター合金で制作した把手、つまみの磨き
  • 蝶番の磨き
  • 本体の拭漆(内部は行わない)

です。

把手、つまみ、蝶番の磨きはピカールケアを使います。金具周囲の木理にピカールケアが入り込まないようにしっかりテーピングし、使い古しの歯ブラシと指先で錆と汚れを落としていきます。

本体の拭漆ですが、仏壇の内側、扉の鏡板の表側は行いません。仏壇内側はヤケが小さかったことによります。扉の鏡板は出来れば制作当初のコントラストに近付けたいと思ったからです。鏡板に漆を塗れば、また全体的に暗っぽくなってしまう。また、扉枠と鏡板の隙間に漆が入り込み、今後の経年変化で鏡板が収縮した際に除去できなかった漆が線状に出てきてしまうことを懸念したこともあります。このため鏡板のテーピングは隙間が出来ないようにしっかり行い、そして漆が鏡板に付かないように養生もします。テーピングして拭漆

金具もテーピングします。特にピューター合金で作った把手は凸凹していて漆が入り込み易く除去しにくいのでテーピングします。抽斗の前板はつまみは外して側板にテーピングします。
今回の拭漆は一回のみです。漆を塗る前に洗剤を薄めた水でクリーニングした際、汚れらしい汚れが無かったからです。また傷も見当たりませんでした。

磨き、拭漆とも予定通りに終えることが出来ました。制作当初のようにはなりませんが、経年変化とはこういうものだ、と納得するしかありませんね。

 

おまけ 1

アツイナツ、ナツイアツ‥‥も後2週間くらいでおさまるでしょうか??そんな猛暑の中、今年も庭にはヤマユリが綺麗でした。近所のおばさんは「鳥が上手に種を運んでくれたんやねぇ」と。チャウチャウ!!毎年球根を残しておいたり種をしっかり撒いとるからやねん!!

 

おまけ 2

おが屑を引き取ってくれている農家のおじさんからたくさんの小鮎をいただいた。
15cmくらいの大きいものは塩焼き、小振りのものは甘露煮。美味かった!!!

小鮎

「夏休みの自由研究‥‥2

前回の『「夏休みの自由研究」? 猛暑で曲げ木!』の結果報告です。 

型の頂点の高さは80mm、型から外した直後の材の曲がり具合、7日後、10日後を測定し曲げ戻りを確認しました(15日後は10日後とどれも変化なし)。曲げ戻り量が多くなることを期待して湿度が高く直射日光に材が当たらない部屋で放置しました。何故そんな環境下に置くかと言えば、曲げ戻りのほぼ限界点を知りたかったわけです。例えば椅子の笠木に今回の作業での曲木を使用するなら、必要な長さやRなど大まかなイメージが作れるしそれを用いたアイデアスケッチへも繋げることも出来ます。

曲げデータ

表を見てみると

1, 煙突に入れても入れなくてもあまり差はない。

2. 10日後の曲げ戻りでは、クルミが10mmに対し、ナラとクリが12〜13mmと大きい。

となります。
まぁ、こんなところです。最近は軽量の椅子の需要が高まっているとも聞きます。制作する人に何か参考になれば幸いです。

弱点は、炎天下、猛暑の時期でしかやれないことですね。