巻障子

3月父の3回忌の法要時、実家でお世話になっている石川のお寺さんから「巻障子を作ってもらえないか?」と相談を受けました。
「マキショウジ?それって何ですか?」
「本尊の前にある折戸。昨年亡くなった母親の寄進の品としたい。」
なるほど「とりあえず現状を拝見させてください。」

依頼があれば何でも作るのが木工屋みしょうです。(赤字になる依頼は断っていますが)
日を改めて採寸することにしました。
1度目は現状の実寸計測。自宅に帰って外寸法をメインに作図して仮の外枠を作成。2度目は仮外枠を携えそれを基準に問題点等を洗い出し、希望事項を加味し自宅で最終図面を作成、仕上げ等も含めて結論出し。

一般的に建具屋さんは、現物を持って現場調整、と聞いているのですが、今回は遠方で何度も行けない、精度のない枠に納める作業となるため、現場合わせだと仕上げた巻障子を削り倒す可能性がある、などから現場仕事は両端を支える軸部分のみとしました。そうすることで巻障子を全く傷付けることなく納めることが出来ます。

完成した巻障子

完成した巻障子(正面)

巻障子の制作

お寺は建造物として数百年経過しているわけで、曲がり歪む柱、鴨居、敷居の間に取り付けることになります。当然取り付ける巻障子は200年以上は使ってもらわねばならず、使う木曽檜の選別は四方柾を基本に木目、反りや捻れを粗削り時、木取り時、シーズニング後等何度も行います。そのため、完成段階の3割ほど多めに加工し始めます。もちろん加工ミス分も含めてですが。
今回の巻障子の構成は、外枠が左右の縦桟と上下の横桟に組子の障子部分を倹飩で納めるというものです。捻じれ、反りが大きいものはハネて行きます。
外枠の組みは小根付き変形二枚の止め枘で馬乗りとしています。

外枠の枘構造

昔の建具屋さんが組子一本一本まで鉋掛けしたように、わたしも面取りも含め丁寧に手鉋で仕上げていきます。昔の建具屋さんはエライッ!とつくづく感じた次第。

組子は外枠が止め枘、内側は相欠きとなります。相欠きの加工は建具屋さんは専用の機械を持っているようですが、わたしはトリマー加工となります(「木工作業の工夫4」で次回書きます)。

障子紙は半透明なものをご希望でしたが、半透明のものは塩化ビニール薄膜に和紙状のものを挟み込むもので厚さが1mm、組子へは特別な両面テープ貼りとなります。経年変化、貼り替え作業を考えると不向きと感じ、楮の因州和紙で最も透過率が良いものを選択し米糊で接着、水張りとしました。

装飾金具は、名古屋の手打ち装飾金具屋さん有限会社ノヨリにお願いしました。桟の見本を送っての特注品となります。相談に伺った際に知ったのですが、宗派によって形、紋様も違うそうです。
金具の取り付けは作業場では出来ず家の中でレイアウト図面と照らし合わせながら行います。しゃがんでの釘打ちはこたえます。

装飾金具の取り付け

ちなみに、使用した真鍮釘の頭は半球で市販のものより出っ張りが大きいのです。どうして?と思ったのですが、釘を曲げてしまった時に判りました。失敗した時や金具を外す際など金具を傷付けずに釘の頭をペンチでしっかり掴むことが出来るのです。なるほど(間違ってたりして……)。

拭漆

外枠は松煙を混ぜるなどした拭漆です。塗り職人のような黒(色)漆をわたしはしません。
埃が付かない環境を作れないこと、厚目の色漆では素材感が出ないこと、材の寸法精度が出ないこと、最終段階で生漆のみを繰り返すと光の角度によって黒地に淡く赤い漆色が醸し出され柔らかで上品な風合いになること、などが理由です。
お寺さんもこちらから説明する前に感じ取ってくださり、「品がある」と。
わたしは木工屋なので、木地が何であるか全く判別できない仕上げは嫌いなのです。

両端は軸支え

折戸の両端は軸で支えられています。鴨居、敷居とも捻れており軸受そのものを作成して埋め込むことにしました。旧位置だと間違いなく戸の合わせが捻れてしまうからです。またそれに合わせると軸を削ることになり軸の強度が落ちるとともにガタつきが生じます。軸穴、軸とも設計通りのサイズとし、200年超を目指したというわけです。材は桜を使っています。

取り付けに一週間掛かり、終わった時は流石に本堂で両手を上げて「終わったぁ!!」と。最終取り付けをご覧になっていたお寺さんのご家族も笑顔で拍手!でした。

木地選びから取り付けの最後まで神経が張り詰めた作業でした。
しばらくは精度がいらない薪割り作業にしよう!(雨続きじゃぁ〜!!)

おまけ

台風21号が近づいていた8月末、雨風の様子を縁側で見ていると、ちっこい亀が2匹ヒョコヒョコ歩いている。3〜4cm程度。生まれて間もない感じ。
6月に庭に来ていた亀が親亀だったのかも。
うちの庭の何処かで産卵していたようです。この子亀たちは田んぼの方に行くのかなぁ。
観察していると、身を隠すためにこの小さい体でゴロゴロした小石を掻き分け隙間に潜り込む。その力強さには驚いた。そして上手に顔だけ出して周囲を見回している。
庭にいたからクサガメ?それとも小石を掻き分ける力があるからイシガメ?

庭の桜が‥‥

台風21号の時は石川。帰って来て庭を見ると桜の木が根こそぎ倒れていた!ガーン!!
ストーブ用の薪は欲しいのだが‥‥

台風21号で倒れた桜の木


巻障子」への4件のフィードバック

  1. 後世に残る意義のあるとても立派な仕事をされましたね。障子の組子をトリマーを駆使して加工されたことにも驚愕しました。いつか機会があれば実物を拝見したいです。

  2. りょうさん、ありがとうございます。お久しぶりです。
    組子加工、わたしが所有する加工機ではこれが最適と思ったのです。他にも良い方法があれば、こっそり教えてください。
    石川からの帰路、久しぶりに金沢のKWCの近藤さんの所に顔を出しました。面白いものを作っていましたよ(仕事ではありません)。8号線からの目印だったドン・キホーテがなくなっていてGulliverになっていますので、お出掛けの際はそれを目印に!

  3. 寺院、本殿の巻障子ですか。立派なものですね。美しい。
    一般には木工の他、金具師、塗師・・・と専門職がそれぞれ分業して作り上げるところ、お一人で作っちゃった?わぉ、
    ヒノキの柾が美しいですね。

  4. artisanさん、こんにちは。blog更新の余裕がないまま作業していました。
    分業は仏具関係は細分化されているようですね。
    わたしは、手が足りない時に友人に手伝ってもらうことはありますが、パーツ制作、塗りなど全て自分でやります。今回の装飾金具は流石にお願いしましたが、金具の手打ちを目にした時は大きく興味をそそられました。今度やってみようかしらん?
    モノ作りはどんな分野のものも人を魅了し、人を作ってくれますね。

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