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桜はまだまだ

ようやく春の陽気が!と思いきや、1週間近く寒の戻り!
ここ数日、ニュースは桜の開花で賑わっているけれど、こちらはまだまだ。

3月25日、裏庭の桜桜はまだまだ

欅板での椅子の背もたれと座板の組みは105°。枘穴は止めにしたのですが作業効率を考えれば通しにした方が加工はずっと楽だと思います。その場合はもっと精度が求められ枘形状も見直す必要も出てくるでしょうが。

直立する前脚に3°傾斜の座板を蟻桟で保持するため、蟻にも角度を付けます。面倒な蟻桟加工にもなりますが同じ角度の板材をトリマガイドに貼り付ければ通常の加工と大差ありません。

座板に3度傾斜の蟻桟

初春の風景

近所を流れている大川でビワマスの稚魚の放流が行われていました。軽トラに5,000匹の稚魚を積んでいるとのこと。全てをこの川に放流するわけではないでしょうが。秋に2匹の遡上を目撃したことを話すと職員の顔がほころびました。さて今回の稚魚、どれくらい成魚になってくれるしょう。

裏庭にある梅がなんとか蕾を膨らませてきました。隣の桜はまだまだです。

3月24日、梅はまだ蕾

蕗の薹、昨年は少し摘んだだけだったのが幸いしてか、今年はたくさん出ています。開く前にボールに3杯摘み取り蕗味噌にして春を賞味しました。来年に向けて半分以上は残しておきました。

庭には土筆、そしてモグラの土木工事も。わたしのカラダも春めいてきたようです。


同一サイズの部材で椅子

部材の幅と厚みを同一サイズとしての椅子制作です。

今まで制作してきた椅子は、座面には座ぐり、笠木と背もたれにはR加工、脚部はテーパー加工などを施して来ました。これらを否定する気はないのですが、初心に還ると言うか限定された部材を使うことで、これらの加工以前に重点を置くべきことに集中したかったわけです。
重点を置いた点は

  • 座の荷重点
  • 背もたれ荷重点
  • 脚部の前後左右荷重
  • 枘組の構造
  • 各部材の必要寸法
  • 組み角度

等々、R加工以前に押さえておかなければならないことはたくさんあります。
今まで蔑ろにしてきたわけではありませんが、希薄だった点が幾つか浮き彫りになります。

今回の椅子は、座高は低くゆったり座るためにデザインしたローチェアで、ダイニングチェアと比較すると座面角度も大きく、荷重点が深部になるために部材点数も増えます。
使用した材のサイズは、幅:40mm、厚み:20mmで、座板と背板(背縦桟)は厚み:12mmとしています。枘加工で使用した角鑿は9mmのみでセンター合わせが基本。強度面ではギリギリかもしれません。
これを基本形とすることで多様なデザインを展開することが出来ますし、枘加工も合理的な統一を図ることができます。

また、真っ直ぐな材を使用したことで荷重点が明確になりますし、必要なRも出て来ます。ただ注意しなければならないのは、座ぐりやR加工を施すと座面高や背もたれの感触、荷重点の位置が変わります。このため、真っ直ぐな材とカラダとの接する箇所は基本ライン上の点として位置付けることが重要となります。

今まで、これらのことを総合的にまとめてデザイン、制作してきたのですが、一歩退いたところでのデザイン、制作は結構割り切ることに苦労します。木取り段階で幾度もR加工が頭をもたげてきます。

おまけ

斜めになる枘、枘の小根が入る箇所は欠けやすいため、組む前に浸透性の高い接着剤で強化しておきます。

枘を強化

 

ほぞ(枘)のこと<追記2>

「底糊」について

「底糊」について、接着剤メーカーの株式会社オーシカさん、木工の先輩にお話を伺ったり、また自身も接着剤に関する資料に再度目を通しました。
「底糊」の効果について、具体的な立証結果というものを見つけることは出来ませんでした。それは使用材、枘の構造(長さ、幅、厚、胴付き面)、接合度、家具の使用条件等、多くの条件からその強度を立証することが難しいからだと想像します。

幾つかの点で頷けることがありました。
  • ごく浅い枘穴しか掘ることが出来ない場合に、枘先と底を密着する精度の高い加工を行い接着強度確保を狙う。
  • ダボ、ビスケットの表面は圧縮溝が付けられていて、接着剤の水分による膨張による接着面の加圧効果の期待と、穴底の接着剤が圧縮溝から押し出され接着剤が行き渡り接着効果が向上する。
  • ミニフィンガージョイントでは、接合部内隅の隙間を埋める加工処理が曲げ強さと美観のためにも推奨される。

<底糊:接着剤で満たすのが良い>という言い回しはあまり的確ではなかったようです。
通常の枘での過分な接着剤は胴付き面の接着を疎外することもありますし、枘穴の空隙を満たす適量の塗布も現実的には難しいです。接合部分には接着剤の未塗布部分を作らない、過分に塗布しない、空隙は小さい方が良い。ということになると思います。

今回、読者の方からのご質問で、改めて接着剤を勉強する機会を得ることが出来ました。充分な回答になっているとは思っていません。「底糊」についてはアタマに焼き付いています。引き続きヒアリングも行い、文献などにも目を通そうと思っています。新たな発見がありましたらまた記述したいと思っていますし、「底糊」についてご存知の方からのコメントもいただければ幸いです。

ほぞ(枘)のこと<追記>

☆”底糊”について、読者の方から、枘穴へ接着剤を満たすこと、接着剤の種類による接着力の効果などのご質問がありました。今一度わたし自身も理解を深めるために調べて、後日ご報告させていただきます。

書き方が少し”底糊”を強調し過ぎていましたでしょうか?

枘の側面のみの接着剤塗布よりも、枘先と枘穴の底面にも接着剤を入れることで接着効果が高まる、ということです。このことは「“底糊”を効かせる」と言うようですね。

木の仕事の会「接着剤セミナー」(2009年2月17日 講師:株式会社オーシカ 名古屋営業所 松崎 力 様)で配布していただいたテキストに改めて目を通してみますと、接着のメカニズムとして、(以下、リスト表示部分はテキストより抜粋・要約)

  • 木材表面の細かな孔に接着剤が侵入、固化して材同士をくさび状につなぎ止める「投錨効果」(アンカー効果)とする説『機械的接着』
  • 木材分子と接着剤分子間の化学的な結合、もしくは電気的な引き合いによりつなぎ止めるとする説『化学的接着』
  • 接着剤と木材の親和性(馴染む性質)<濡れ>、双方の分子間引力とする説『物理的接着』

があり、これら三つが組み合わさって接着が出来る。とされています。
枘先と枘穴の底面には否応なく空間が出来てしまいます。ただ空間としてあるよりも接着剤で満たしていた方が接着効果が高まる、と解釈しています。

接着剤には多くの種類(酢酸ビニル系、エポキシ系、フェノール系、ゴム系など。乾燥速度。1液・2液タイプ。etc.)があり、どれを選択するかは非常に重要ですが非常に難しいですね。使われた先輩方からアドバイスを受け使ってみる、と言うのがわたしにとっては現実的です。
接着剤がそれぞれ持っている性能を最大限に生かして、上手く使いこなすには、(以下、リスト表示部分はテキストより抜粋・要約)

  • 材料の特性
  • 接着剤を使用する際の環境
  • 接着後に想定される必要強度、設置環境

等をチェックすべきなのでしょうが、これら全てを考慮して接着剤を選択、使用することは個人の木工屋では難しいですね。
ですので、わたしが接着効果を高めるために出来ることは、(以下、リスト表示部分はテキストより抜粋・要約、一部追加)

  • 使用状況に適合した接着剤の選択
  • 使用する材表面についた異物の除去
  • 組み部分の形状変化(二枚枘、2.5枚枘等)
  • 接着面積の増加(底糊、二枚枘、2.5枚枘等)
  • 接着剤乾燥までプレス、クランプなどでの充分な圧締

などです。

接着剤、奥が深いですね。

ほぞ(枘)のこと 

大工さん、建具屋さん、家具屋さんなど木の加工をする人にとって、継手や仕口は最も重要視されることは周知のこと。そして国を問わずその歴史は長く、その方法、種類はとてつもなく多い。
多くの継手や仕口を知っていることはとても大切なことではあるけれど、わたしたち木工屋は個々人、メインとして多用する数種の組み方を持っていて、制作物のデザイン、材のサイズに合わせて幅、長さ、深さの調整を行っている。そうでもしないと、角鑿の交換や位置決め、傾斜盤の刃高調整等加工に入るまでに時間が費やされ効率が悪くなってしまい、精度も出難い。組み方や寸法の数は少なければ少ないほど効率は良い。経験豊かな人は、全体のデザイン、部材の寸法、そして加工、継手や仕口の方法、寸法まで全てを眺望し効率的な作業手順を立てていることは想像に難くない。

多用しているメインの枘組み

二枚枘わたしが多用しているメインの枘組みは「四方胴付き二枚平枘接ぎ」。良く言う二枚枘。ただ枘と枘の間は高くしてある。これを基本として材のサイズに合わせて幅、長さ、深さの調整、小根付きにしたりなどしている。

 

 

 

どうして枘と枘の間を高くしているか

木工を始めた当初は、この二枚枘の間は胴付き部分と同じ面だった。ある時、6mm厚の二枚枘でのこと、こんなことを思った。

  • 枘の間の加工に一手間掛かる。
  • 二つ目の枘穴を開ける時、角鑿の位置決めに直尺で確認しなければならない。

さらに極め付けは、

  • 組んでいる時に枘が折れてしまった。

これらの経験から、枘と枘の間を高くすることにした。わたしは勝手に2.5枚枘と呼んでいる。この枘だと

  • 枘の間の加工が楽。
  • 角鑿の位置決めは、一つ目の枘穴の後、その枘穴に沿って間の枘穴、同様に二つ目の枘穴加工。直尺の確認がいらない。(基準面からの位置決め)
  • 二枚の枘の間を高くすることで、枘の強度が増す。
  • 接合面が多くなることで組み上がった時の強度も増す。

加工が楽になり強度も増す。結構、自己満足!

木工の諸先輩からすれば「常識今更言うことじゃないよ。」と言われるかもしれない。かな?

 

枘に一手間

枘組みで胴付き面が隙間なく組み上がるのは何年経っても気持ち良く、ホッとする。毎回上手く行くわけでなく問題が生じることもある。
長い枘の場合、枘穴を枘の長さより深めに掘っているにも拘らず収まりきらないことがそのひとつ。

組み込んでいる枘穴の中は空気と接着剤が入っている。注射器の先を塞いでピストンを押すようなもの。導管が比較的大きなクルミやタモなどは導管から空気と接着剤が比較的逃げ易いが、木目の細かい硬質な山桜などは逃げ場は無いに等しい。枘穴の底は底糊(そこのり)と言って接着剤で満たすのが良いとされ※1、少しばかり多目に塗る場合もしばしば。
逃げ場のない空気と接着剤は、時にピストンである枘を跳ね返して来る。これを抑えるためもありクランプや端金で固定するのだけれど、結構無理して抑え込むことがある。「コナクソーッ!」と唸りながら‥‥。そうすると材が捻れた状態で固定してしまう。とりわけポニークランプは力を入れ易いこともあり、捻れが生じ易い。

空気と接着剤の逃げ道そこで思い付いたのは、枘に空気と接着剤の逃げ道を作ること。写真のように彫刻刀の線彫り(三角刀)で両面に逃げ溝を入れる。ほんの一手間で跳ね返りは解消される。当然跳ね返りがないために、クランプを「コナクソーッ!」と唸りながら締めることもなくなり捻れも生じ難い。底糊も十分となる。

この一手間は全ての枘で行っているわけではない。それをやっていたら大変だ。長い場合、幅広の場合、木目の細かい硬質材の場合などに手を入れている。

一度、お試しあれ!

※1<底糊>:木の仕事の会「接着剤セミナー」で教わりました。
講師:株式会社オーシカ 名古屋営業所 松崎 力 様
2009年2月17日 <企画担当/進行:はやし弘志>