ふきのとう

2月27日、霙まじりの雨が降っていましたが、晴れ間を見計らい庭に出て陽射しの中で目を閉じると春が躰を包み込んでくれるのを感じます。

鹿さん、鹿さん、ちょっとぉ〜!

こちらに引っ越して来て3度目の春となりました。
初めての春。庭の隅っこでふきのとう(蕗の薹)を発見!天婦羅と味噌汁の具にして、大人の苦みに春の始まりを味わいました。

昨年の春。楽しみにしていたふきのとうは10個ばかり。前年末に50cmの積雪の後、雪らしい雪が降らなかったからかなぁ?などと想像していました。庭のあちこちに鹿の糞、糞、糞‥‥。前年、真面目に草刈りをしたせいで糞、糞、糞‥‥が目立つ目立つ鹿の糞

今年の春。ふきのとうがたったの1個しばらくすれば出てくるさと思っていたら、雪、雪、雪‥‥最大積雪量は80cm程となり、ふきのとうはまた雪に隠れてしまいました。

昨日、ひとときの晴れ間に残雪わずかとなった庭に出てみると、「唯一のふきのとうが‥‥
どうも、鹿のようです。木の皮まで齧られている昨秋は山の木の実が不作らしく熊も空腹のせいか既に冬眠から覚めているとのこと。鹿も空腹??

昨年夏、庭に斜めに走る獣道を発見していました。雪が降ると足跡が残るのでより明快です。ただこの地は、猿、鹿、猪、イタチ、狸、はたまた熊も出るようで、何の獣道かはわからないまま。

わたしがこの地で見た動物たちは、ごく日常的に猿、夜雪の様子を見ようと窓を開けた時に逃げ出した猪、鹿、農道をウォーキング中に見かけたイタチくらいです。
どの動物か??あちこちに撒き散らされている糞から想像すれば鹿なのですが、畑の方ではなく民家の方へと繋がる獣道と足跡からは鹿と判断しかねる次第。
今年、摘み取ったふきのとうで春を感じ取れるでしょうか?

 

多摩川河川敷にふきのとうはあるのだろうか?写真の上村君は春の笑顔を持っている。大人の苦みを味わうこと無く逝ってしまった。
合掌

抽斗とセンターガイド

収納で最も重要視され多用されている抽斗(引き出し)ですが、その基本構成は前板、側板、向こう板、底板からなるものの、用途に応じて様々な構造があります。

抽斗の構造はさまざま

個々の木工屋で基準となっている構造は、親方、先輩からの指導や技能専門校などでの先生の指導に依るところが大きいと思います。
前板と側板の取り付け方法、側板と向こう板の取り付け方法、底板の取り付け方法等様々でどの方法が一番良いとは言い切れないでしょう。材料コスト、制作時間、強度、意匠等から個々の木工屋がそれぞれ最善のタイプとして選択していると思います。
わたしは、側の縦桟(もしくは中仕切り、束(つか))と上下の棚口桟に前板がすっぽり収まるインセットを基本タイプとしていて、前板と側板とは包み打ち付け接ぎ(側板の厚み分、前板を欠き取る方法)、側板と向こう板とは小根追い入れ組み接ぎ、構成部材は底板も無垢材で、前板、側板、向こう板の内側下方に溝を回し底板を差し込んでいます。これを基本として、アウトセットにしたり、前板と側板との接ぎを手の込んだものにしたりしています。今後もこの基本タイプは変わらないと思います。

人って情けないもので楽な方法(加工など)を知ってしまうと、どうしてもそこに流れてしまう。例えば、寸法、カネが出ているはず、と基準面を無視してしまうとか、底板は合板でタッカーで留めるとか、甘い誘いはたくさんあります。それを打ち払い背筋を伸ばすのが注文家具を制作する姿勢だとわたしは思っています。ただ、その線引きは難しいですが‥‥

抽斗の受けとガイド

一般的に抽斗の受けとガイドは抽斗の側板が乗る受け桟と摺り桟に依ります。わたしも当然これを基本としています。

ただ、木工屋になってまだ浅い頃に図面を引いていた時、側を帆立を指した框組とした際、抽斗の左右の揺れを抑える摺り桟のスペースが無い!ことに気付きました。また、この構造だと抽斗を入れる際に側板の奥が帆立に当たってしまう。図面を引き直し、側の横桟の位置を上に上げて対処しました。それ以降は、正面である見付けの棚口桟の位置とのバランスを図るため側横桟の幅(厚み)を大きくしてセンター合わせを行ったりするなどしています。抽斗受け桟や摺り桟を後付けすることもありますが、一体として棚口桟と束、棚口桟と縦桟、ふたつの桟に枘組みした方が強度は増します。お客様が見ることなどほとんど無いでしょうが見た目も綺麗です。

また、抽斗を入れる際に側板の奥が帆立に当たってしまう、もうひとつの対処の方法はセンターガイドです。

センターガイド

わたしがセンターガイドを初めて知ったのは、アメリカ大使館で使っていたという中古の整理箪笥です。知人から抽斗にガタがあるので見てもらいたい、と言われたのです。大雑把な作りでした。プレス品にローラー式のセンターガイドはまあ良しとしても、左右に抽斗側板の受け桟が無い!他にも不具合がたくさんあり結局手を出しませんでした。不具合の多さがセンターガイドを意識の外に放り出してしまった!そんな感じです。

その後、すっかりセンターガイドは忘れていたのですが、工房通信 悠悠「引き出しセンターガイド」(2009年6月24日)で思い出しました。

抽斗センターガイド

当初わたしは、「引き出し底の下に取り付ける受桟(センターラン)」、センターガイドのガイドとしてセンターガイドを挟む桟を2本取り付けていたのですが、何竿か作っていて抽斗の嵌め合いを確認している時に、向こう板の底にセンターガイド用の欠き取りがあり、ガイドに接触しているのはこの部分のみ。抽斗左右側板の嵌め合いが良ければセンターガイドを挟む桟は不要でその部分のみ硬い材であれば良い。と結論付けました。ただ、間口の大きな場合には「受桟(センターラン)」が必要になる場合もあるでしょうが、底板600×600mm位までは問題無く使ってもらっています。

写真では向こう板の背にガイドとなる材を取り付けていますが、向こう板下部15〜20mmを山桜にする場合もあります。

おいで祭り(平国祭)を思い出す

立春前に降り積もった雪もほぼ溶けて、そろそろ庭のふきのとうを摘もうか、などと思っていたのですが、昨晩から全国的に真冬となり、こちらは50センチの降雪となり今も降り続いています。今冬は重い湿雪が多かったのですが今回の雪は軽く、サラッとしています。それだけ日本海側から流れ込んできている寒気が強いということですね。

窓から木々の新芽に降り積もる雪を眺めていて、ふと実家の羽咋にある気多大社の神事・おいで祭り(平国祭)に参加したことを思い出しました。※気多大社、おいで祭り(平国祭)詳細は文末をご参照ください。

おいで祭りに参加

中学校を卒業し高校の入学式を待つ春休み(?)期間中に、わたしはこの「おいで祭り」に参加しました。わたしが応募したのではなく、父親がわたしの知らない間に応募していたわけで、「18日から気多大社のおいで祭りに行くことになっているから」と告げられ、意味が判らず「はぁん??」。

内容を理解していないわたしは先輩(?)について歩くばかり。当時、わたしと同年齢の人はいなかったように思います。地元のオッサン、大学生が大半です。中学高校は卒業を控えるもの以外は春休み前ですからねぇ。

3月18日から23日まで毎朝5時に起き、6時前に気多大社に集合。毎日40〜50キロを徒歩で巡業するわけです。巡業工程約300キロを雪、雨、風があろうが関係なく歩く、歩く、歩く。吹雪いて顔が上げられない農道も歩く、歩く、歩く。六日間で神社105社、御招待民家101軒で祭典を執り行うというものです。当時、御神輿などは目的地近くまではリヤカーで運んでいたと思います。今は、御神輿、人も軽トラを使っているとかいないとか‥‥。姉が「ありがたみが無くなったわいね」と漏らしていましたが‥‥。

遠方で家に帰られない日が1日ありました。陽も落ちて宿泊先が決まる報告を待つ間、あまりの寒さでコップ酒2杯を一気飲み!腹の中がグワァ〜ンと熱くなる。そこへオッサンが「決まったぞぉ!付いて来ぉい!」と走って来て走って行く。置いてきぼりにならないように、わたしも走る、走る、走る。酒の酔いで道が右に左にグラグラ傾いたり‥‥酒の酔いの初体験!

宿は大きな民家で、夕飯の食卓には同い年くらいのお嬢さんもいらっしゃった。ただご主人がわたしを大学進学を控えた者だと勘違いしておられたようで、燗酒を勧めて来る。当時からわたしは遠慮することを知らないようで勧められるままお酒をいただき、呂律が回らないままお風呂もいただき、疲れと酔いで布団にバタン。そして翌朝からまた歩き始めるのでした。

小春日和があったものの大半は寒風の中を歩いていたものですから、終わった頃には唇はガサガサ!凍傷ですね。その頃はリップクリームなどというものも知らなかったですから。

思い返せば、父親が「少しは大人になれよ」と参加させたのかも。

数日後、折口信夫追悼か何かの企画に詩が入選しました、と小冊子が届けられました。「おいで祭り」のご褒美?応募した記憶もなかったのですが、読んでみて「そういえば、これ書いたなぁ」と思い出しました。詩のタイトルは「埋れ木」。

寒さ厳しき折、皆さん風邪などひかれませんように!

気多大社

気多大社(けたたいしゃ、正式名:氣多大社)は、石川県羽咋市にある神社式内社名神大社)、能登国一宮旧社格国幣大社で、現在は神社本庁に属さない単立神社。旧称は「気多大神宮」。(ja.wikipedia.orgより)

氣多大社Webサイトより
■ 平国祭(3月18日~23日)

別名おいで祭りは、祭神大国主神が能登の国を大変御苦労されて御開拓になった御神蹟を偲び、その神恩を感謝し、広大無辺なる御神徳を仰ぎまつる古式を伝える由緒のある特殊神事です。

おみくじで選ばれた神馬(背に御幣を立て)先導車を先頭に神職(乗馬)、 威儀の物(長柄鎌、順に広矛、社名旗、太鼓、唐櫃、錦旗、四神族)奉持、 祢宜(乗馬)神輿、同台、宮司(乗馬)、献備箱(車)、長持(車)、 宰領(車)、長持(車)、神輿台車(車)順に神職、馬丁、 白丁(宰領、威儀物奉持、神輿かつぐ役)その他(運転手、連  絡係、みくじ係、交通整理員) 総勢六十人行列を仕立て、三月十八日早朝本社を御発輦になり、 関係深い二市二郡(羽咋、七尾市、羽咋、鹿島郡)内を六日間に渡り各地区沿道盛んな出迎えを受けながら御巡行(行程約三〇〇キロ)御駐泊(五泊)、この間御駐憩二〇六ヶ所(神社一〇五社、御招待いえ一〇一軒)で祭典を執行し、三月二十三日夕刻本社に御還幸となります。

全国的に見ても類例のない規模の大きな神幸祭です。

また沿道の人達は、寒さも気多のおいでまでと言い伝え、能登路に春を告げる祭りとして親しみ、神様を迎え春を待つのです。

ほぞ(枘)のこと<追記>

☆”底糊”について、読者の方から、枘穴へ接着剤を満たすこと、接着剤の種類による接着力の効果などのご質問がありました。今一度わたし自身も理解を深めるために調べて、後日ご報告させていただきます。

書き方が少し”底糊”を強調し過ぎていましたでしょうか?

枘の側面のみの接着剤塗布よりも、枘先と枘穴の底面にも接着剤を入れることで接着効果が高まる、ということです。このことは「“底糊”を効かせる」と言うようですね。

木の仕事の会「接着剤セミナー」(2009年2月17日 講師:株式会社オーシカ 名古屋営業所 松崎 力 様)で配布していただいたテキストに改めて目を通してみますと、接着のメカニズムとして、(以下、リスト表示部分はテキストより抜粋・要約)

  • 木材表面の細かな孔に接着剤が侵入、固化して材同士をくさび状につなぎ止める「投錨効果」(アンカー効果)とする説『機械的接着』
  • 木材分子と接着剤分子間の化学的な結合、もしくは電気的な引き合いによりつなぎ止めるとする説『化学的接着』
  • 接着剤と木材の親和性(馴染む性質)<濡れ>、双方の分子間引力とする説『物理的接着』

があり、これら三つが組み合わさって接着が出来る。とされています。
枘先と枘穴の底面には否応なく空間が出来てしまいます。ただ空間としてあるよりも接着剤で満たしていた方が接着効果が高まる、と解釈しています。

接着剤には多くの種類(酢酸ビニル系、エポキシ系、フェノール系、ゴム系など。乾燥速度。1液・2液タイプ。etc.)があり、どれを選択するかは非常に重要ですが非常に難しいですね。使われた先輩方からアドバイスを受け使ってみる、と言うのがわたしにとっては現実的です。
接着剤がそれぞれ持っている性能を最大限に生かして、上手く使いこなすには、(以下、リスト表示部分はテキストより抜粋・要約)

  • 材料の特性
  • 接着剤を使用する際の環境
  • 接着後に想定される必要強度、設置環境

等をチェックすべきなのでしょうが、これら全てを考慮して接着剤を選択、使用することは個人の木工屋では難しいですね。
ですので、わたしが接着効果を高めるために出来ることは、(以下、リスト表示部分はテキストより抜粋・要約、一部追加)

  • 使用状況に適合した接着剤の選択
  • 使用する材表面についた異物の除去
  • 組み部分の形状変化(二枚枘、2.5枚枘等)
  • 接着面積の増加(底糊、二枚枘、2.5枚枘等)
  • 接着剤乾燥までプレス、クランプなどでの充分な圧締

などです。

接着剤、奥が深いですね。

ほぞ(枘)のこと 

大工さん、建具屋さん、家具屋さんなど木の加工をする人にとって、継手や仕口は最も重要視されることは周知のこと。そして国を問わずその歴史は長く、その方法、種類はとてつもなく多い。
多くの継手や仕口を知っていることはとても大切なことではあるけれど、わたしたち木工屋は個々人、メインとして多用する数種の組み方を持っていて、制作物のデザイン、材のサイズに合わせて幅、長さ、深さの調整を行っている。そうでもしないと、角鑿の交換や位置決め、傾斜盤の刃高調整等加工に入るまでに時間が費やされ効率が悪くなってしまい、精度も出難い。組み方や寸法の数は少なければ少ないほど効率は良い。経験豊かな人は、全体のデザイン、部材の寸法、そして加工、継手や仕口の方法、寸法まで全てを眺望し効率的な作業手順を立てていることは想像に難くない。

多用しているメインの枘組み

二枚枘わたしが多用しているメインの枘組みは「四方胴付き二枚平枘接ぎ」。良く言う二枚枘。ただ枘と枘の間は高くしてある。これを基本として材のサイズに合わせて幅、長さ、深さの調整、小根付きにしたりなどしている。

 

 

 

どうして枘と枘の間を高くしているか

木工を始めた当初は、この二枚枘の間は胴付き部分と同じ面だった。ある時、6mm厚の二枚枘でのこと、こんなことを思った。

  • 枘の間の加工に一手間掛かる。
  • 二つ目の枘穴を開ける時、角鑿の位置決めに直尺で確認しなければならない。

さらに極め付けは、

  • 組んでいる時に枘が折れてしまった。

これらの経験から、枘と枘の間を高くすることにした。わたしは勝手に2.5枚枘と呼んでいる。この枘だと

  • 枘の間の加工が楽。
  • 角鑿の位置決めは、一つ目の枘穴の後、その枘穴に沿って間の枘穴、同様に二つ目の枘穴加工。直尺の確認がいらない。(基準面からの位置決め)
  • 二枚の枘の間を高くすることで、枘の強度が増す。
  • 接合面が多くなることで組み上がった時の強度も増す。

加工が楽になり強度も増す。結構、自己満足!

木工の諸先輩からすれば「常識今更言うことじゃないよ。」と言われるかもしれない。かな?

 

枘に一手間

枘組みで胴付き面が隙間なく組み上がるのは何年経っても気持ち良く、ホッとする。毎回上手く行くわけでなく問題が生じることもある。
長い枘の場合、枘穴を枘の長さより深めに掘っているにも拘らず収まりきらないことがそのひとつ。

組み込んでいる枘穴の中は空気と接着剤が入っている。注射器の先を塞いでピストンを押すようなもの。導管が比較的大きなクルミやタモなどは導管から空気と接着剤が比較的逃げ易いが、木目の細かい硬質な山桜などは逃げ場は無いに等しい。枘穴の底は底糊(そこのり)と言って接着剤で満たすのが良いとされ※1、少しばかり多目に塗る場合もしばしば。
逃げ場のない空気と接着剤は、時にピストンである枘を跳ね返して来る。これを抑えるためもありクランプや端金で固定するのだけれど、結構無理して抑え込むことがある。「コナクソーッ!」と唸りながら‥‥。そうすると材が捻れた状態で固定してしまう。とりわけポニークランプは力を入れ易いこともあり、捻れが生じ易い。

空気と接着剤の逃げ道そこで思い付いたのは、枘に空気と接着剤の逃げ道を作ること。写真のように彫刻刀の線彫り(三角刀)で両面に逃げ溝を入れる。ほんの一手間で跳ね返りは解消される。当然跳ね返りがないために、クランプを「コナクソーッ!」と唸りながら締めることもなくなり捻れも生じ難い。底糊も十分となる。

この一手間は全ての枘で行っているわけではない。それをやっていたら大変だ。長い場合、幅広の場合、木目の細かい硬質材の場合などに手を入れている。

一度、お試しあれ!

※1<底糊>:木の仕事の会「接着剤セミナー」で教わりました。
講師:株式会社オーシカ 名古屋営業所 松崎 力 様
2009年2月17日 <企画担当/進行:はやし弘志>